変な夢を見た。
見たものを文章に起こしてみようとの試み。
なんで自分の見る夢は一人称始点が多いのだろうか……謎だ。
意識というものを言うのなら、僕は形になって2年かそこらで手に入れた。
地面に突き刺されて2年、僕の役割は僕を作ったお爺さんが話していた。
僕は案山子という物だそうだ。
ただ、畑の前で立っては、少しずつ変わっていく風景を僕という、
案山子というその形を無くすその瞬間まで眺め続けるのが仕事だそうだ。
周りは緑豊かなごく平凡なところで畑の向こう側には木の芽が小さく出ていた。
僕にはお爺さんや通り過ぎる人々や、肩にとまる鳥たちに声を出すことは出来ず、
ただボロボロの服を風になびかせているだけではあるがそれに不満を覚えることはなかった。
声なんか出やしない、僕はただの案山子だから。
月日という物を感じたのは、それから10年過ぎた頃だった。
僕を作ったお爺さんが天に召されたと、お爺さんの息子が話していた。
天に召されるとはなんなんだろうか?空?
雨の日に弱った小鳥が地面で動かなくなったアレの事なのだろうか?
そのあとの小鳥は色々な過程を経て土に還ったアレの事なのだろう。
生き物には寿命という活動の時間制限があるらしい。お爺さんは孫の顔を見てみたいと、
いつも息子さんが顔を出すたびに言っていたのだがそれは叶わずに天に還った。
多分僕は寿命という物は存在しないのだろう、だってただの案山子だから。
それから少しの月日が経って、その息子さんはこの畑で野菜を耕すようになった。
どうやらまだ僕の役目は続いていくらしい。
それから、その息子さんの子供も時折この畑に顔を出すようになった。
お爺さんと息子さんの両方の面影は無かった、母親似なのだろう。
子供は僕の事をお父さんから教えてもらうと、
よく話しかけてきたのだが声が出せないのでただ見つめ返すことしか出来なかった。
月日はどんどん過ぎてゆく。
この土地は代々受け継がれてゆき、僕の着ている服も世代が変わるごとに代々着せ替えてくれた。
四代目の時にはちょっとおしゃれな羽帽子を被せてくれた。
冬の日にボロボロのマフラーをくれたけど、その後取るのを忘れたのだろうか?
別に熱さや寒さを感じることは出来ないけれど、
夏の日もマフラーを巻いているのは暑苦しく見えるんじゃないだろうか?
月日は過ぎてゆく。
気付けば、畑の向こう側に芽吹いていた小さな命は今では立派な大木になっていた。
7代目の子供が大人になった頃、少し変化があった。
どうにも魔物との戦争が始まったとかで、徴兵令とかで出て行った。
そのあと、7代目が帰って来る事はなかった。
7代目の残していった息子が青年になった頃、同じように戦争へと駆け出していった。
帰って来る事は無かった。
あれから何度の春を迎えただろうか?
視界の端に見えていたお爺さんの時からあった町から人の気配がなくなったのはいつからだろうか?
あれから戦争とう言うものは終わりを告げたのだろうか?
あの町に人が戻ってくることはあるのだろうか?
魔物と言われるヤツが僕の前を通り過ぎる。
ただの案山子には興味が無いのだろう、こちらを見ることなく通り過ぎてゆく。
それからさらに月日は過ぎてゆく。
もう、時間の経過を図るものは向こうにある大木の成長位だ。
そんな時、僕の肩に久しぶりの来客が現れた。
いつも僕の肩で羽を休めるのは鳥だったのだが、
今日の来客は小さい人間に羽が生えた格好をした変わった客だった。
息を荒くしてクタクタに羽を休める客人の来た方向はいつか魔物が通りって行った方向からだった。
もしかして、逃げてきたのだろうか?
あんな、通り過ぎてゆくだけで天気も気分も悪くなるようなヤツ等だ、そりゃ逃げたくもなるか。
なんて思っていると僕の肩でビクリと客人は体を振るわせた。
何かあったのだろうか?
「・・・今の声は貴方なの?」
その声は凛としていて僕の中に響いた。
それにしても驚いたのは僕のほうだ、僕の思っていることが判るのだろうか?
「えぇ、・・・・・・あなたはいつからここに居るの案山子さん。」
畑の向こうにある、ひときは大きな木が小さく芽を出していた頃から僕はここにずっと立ち続けているよ。
ついでにその木に巣を作っていた鳥たちは結構前に飛び立ってしまって、
もう随分ここは生き物の気配も無く木や草が静かに息づいているよ。客人がくるのはホントに久しぶりだよ。
君はあの魔物から逃げてきたのかい?結構な数がぞろぞろと君が飛んできた方へ歩いていったものだからね。
「・・・・・・そうなの。」
そういって、小さい人は暗い顔をして黙り込んだ。命からがら逃げてきたのだろう、可哀想に。
「貴方って結構おしゃべりな案山子さんなのね。」
思っていることが解る人だった事を忘れていた。
誰かと話すというのは今日が初めてだよ。でも、いままでいろんな人が僕に話しかけてくれた。
人だったり鳥だったり犬だったり。
そう僕が思っていると、彼女は黙り込んで何かを考えているようだった。
それから少し経って彼女は僕に言った。
「・・・・・・・・・貴方に頼みたいことがあるの。」
僕に頼みごと?僕が出来る事は人よりも限られているよ?
「貴方に私達の指揮をお願いしたいの。」
シキ?なにそれ?
「指示をして人を動かすことです。前から魔物たちと戦争が起こっているのはわかっていますね?」
7代目がそういうことを言ってここを離れていったよ。
でも君は僕の見てきた人達とは少し格好が違うのだけれど?
僕の見てきた人達はそんなに小さくないし、空を飛ぶ為の羽を持ってはいなかったけど?
「貴方が見てきた彼等は人間で、私は妖精なの。
本来、お互いに干渉しあわないだけど、この戦争は云わば私たち精霊と人間が手を組み、
あの魔物を討つ戦いなの。
そしてこの戦いは、もうかれこれ50年続いている。私たち精霊種は人間より寿命という物は長いです、
ですが人間はものの50年程でその生涯を終えてしまいます。」
え~と、僕に人間の方のその・・・シキをして欲しいのかい?
「はい、今人間側は次期の指揮者を探しています。」
でも僕には君達のようにそこらを自由に移動できるには出来ていない、
鳥のような羽も無いなければ足も無い。
ただ地面に一本穿たれた案山子だ。
「もし、引き受けてくれるのでしたら。私が自由に歩ける足を与えましょう。」
いいよ、引き受けよう。
「・・・・・・・・・決断早いわね。」
もう、帰ってくる主もその息子もその孫もそのまた孫も、もう此処には帰っては来ない。
僕の案山子としての役割は、もう無いに等しいし。
この風景やまた平凡な暮らしを戻せるのなら、やる価値に値するしね。
「・・・・・・楽観的ですね。」
いや、僕にある選択肢は此処にへばり続けるかシキをとるかの二つだけしかないからね。
それなら未だ経験の無い事した方を僕はとるね。
「・・・・・・分かりました。」
そういって、妖精さんは僕の一本足を二本にしてくれた。
その場を歩き回る。
視界がいっきにひらけるというのは新鮮で気分がいい。
「これでしばし、此処ともお別れか――――って、・・・・・・これが僕の声なのかぁあ。」
「思っているだけでは人間には伝わりませんから。」
「ありがとう。そういえば君の名前をまだ聞いてなかった。」
「私は、アイリです。」
「アイリか。うーん僕の名前はどうしようか・・・・・・案山子だしスケアクロウでいいや。よろしくアイリ。」
そういって丁寧にお辞儀をする。
「よろしくスケアクロウさん。ではまず、人間の居る王国へ向かいましょう。」
そういってアイリは見えない町を指差す。
「行こうアイリ。」
まだ見ぬ町を目指し歩く。
僕にはそこらを自由に移動できるようには出来ていない、鳥のような羽も無いなければ足も無い。
ただ、地面に一本穿たれた案山子だった。
ただ、この風景を200年眺め続けた、ただの案山子だった。
その役割を終えた時、僕の前には新しい世界が開けた。
ってとこで目が覚めた。
久しぶりに夢を見たらこんな変てこなものを見た。
主人公案山子ってアンタ……オズの魔法使いじゃあるめぇし。