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「うぅぅぅぅ………」


 呻き声は仄暗い男子寮の底から聞こえてくる。
 辺りは黄昏時を過ぎ、夕闇へと街の景色が移り変わろうとするさなか、
 自転車置き場に備え付けられた街灯とまだ幾ばくか残る微かな日の光を受け、四つん這いになり地面と対話する者がいる。


「うぅぅぅぅ………うぅ、怖かったよ~」
 例によって上条当麻その人である。

 先ほどから立ち上がろうと地面に………彼の頭の中では突っ張った足を踏んじばって立ち上がろうとしているのは見て取れるのだが、
 あまりにも見るに耐えない姿で涙を誘うものがある、
 もし彼が生まれたての子鹿であったのなら、感動の涙を誘っていたに違いない。
 そんな彼を見て「立てるか?」等と、傍に立ち………他人事のように言ってのける仮面の態度は対照的だ。 

 同じように落ちたのに、この差は一体なんなんだ!?まだ体が言うことをきかねぇ!!っつか傍から見て物凄い惨めだぞオレ!
 オイ俺!!言うこと聞けよ俺!!と自身に喝を入れること数秒。
「………だめぽ」
「だよな――――」


 ズパン!!!!


「アッッッ――――ガッ!!!!」 

 辺りには大気を震わす鞭の如き乾いた響きを、彼には不意に背を刺す痛みが走ったことだろう。
 それ程にタマキの平手を凄まじく深く重く体の芯にまで届くように感じたのは、
 まさに不意を突かれての油断に因るものなのかということは上条自身どうでもいいことであった、単純に痛かったのだ。
 おかげで彼は二本の足で立つことは出来ていたのだが………ゆうに3~4秒程の間、未だ発見されていない新種の脊椎動物とでも言わんばかりに
 反り返っている様子をビジュアル的に事細かに言葉を並べることはどうでもいいことであった、単純にキモイ。

「………もうチョイ、も~チョイでエクソシスト」
「ふざけんな!めちゃめちゃ痛かったぞ!こんバカァ!!」反った体をコンパクトに戻すのと同時に
 人差し指をこちらもコンパクトに相手に向けて指差す彼の目は潤んでおり
「江頭乙」
「――――………」その間髪無い一言で怒りが萎んでしまった上条だった。

 タマキの馬鹿さ加減に呆れてモノが言えなくなってしまっていたのも一つの要因ではあったのだが、
 彼の口を噤ませたのは目前の落下地点周辺の地面が割れていることのほうが大きかった。
 冷静に考えてみれば彼らは寮の六階から飛び降りたのだ。考えるまでも無く死ぬ高さだ、しかも地面はコンクリートときている。万に一つも無い、普通なら。

 急に体の感覚、主に痛覚が麻痺しているような錯覚や不快感や焦燥が入り混じったようなものが頭の先から足の先まで隈なく彼の身体を侵食した。
 タマキに叩かれた背中以外に、痛みを訴える部位がまったく無かったからである。
 血の気は引いてゆき、冷や汗の一つも出ない気持ち悪さの中、腕や足が折れてはいないか四肢を触り痛む箇所を探し始め、軽いパニック状態に陥っていた。

「………………………………痛くない」
「ん?もう一発か?」
「イヤイヤイヤイヤッ!……っていうか何故に無傷でいられているのか説明を求めたいのですが」
「コレのおかげ」と、片足を軽く上げ裾から脛辺りまで顔を出した靴を指差した。


 タマキの履いている靴はウェスタンブーツの様な形状ではあったのだが、違和感に上条はその靴を凝視する。
 どうも外見からは[どんな素材]で出来ているのか判別が付けられないという奇妙な靴だった。
 色は黒を基調としたメタッリックの様な鈍い光沢を放ってはいたのだが、
 はたして皮で出来ているのか、プラスチックで出来ているのか、ゴムで出来ているのか、鉄で出来ているのか………。

 どうみても普通の店で取り扱っている靴と違う、ということだけはマチガイナイ。
 それに、さらに目を凝らせば、出会った時から嵌めている手袋も同質のものだ。



 そこで上条は何となく思いついていた。
「………被験者ってソレのことなのか?」
「……小萌が言ったか」質問に対しての答えと言うより、彼のその質問を生むキッカケが誰であったのか答えを得た独り言だ、
 その台詞がそのまま上条に対する回答でもあったが………。

 平常心を取り戻しつつあった上条にはわからない事が他にもある。


「……さっき言ってた特別風紀班ってなんなんだよ?……そんなの聞いたことねぇぞ?」

「突入の仕方が海外の刑事ドラマっぽかっただろ?っつってもお前さん見てなかったからわからないか……」タマキの口調が自慢げになる。
 仮面の向こう側で不敵な笑みでも浮かべているに違いないことは上条にもわかった。
「あんな窮地に出くわしてみろ、一番いい方法は街の治安自治体的な者――――[相手の出方次第では、どのような対処をしても良い]事を許された組織、
 つまりは一人ではなく組織の一人であることを相手に分かりやすく行動でしめすとだな――――」
「つまりアレか?お前が言いたいことは」
「のっけからハッタリ。それより上条、インデックスとはどいう関係だ?」不意にトーンの落ちた声で質問をなげられる
「――――ッ!!!!」


 仮面の口から知り得ない筈のワードが出た瞬間、上条は条件反射でタマキから距離をとるため跳び退き身構えた。


 なんでコイツが彼女の名前を知ってやがる!!?

 通路で倒れているインデックスを捉えた時から今まで頭の中の警報機はなりっぱなしで、

 あの魔術師との戦闘時がピークかと思っていたが……。マズイ、目の前に立つコイツ、お前も――――


「お前もさっきのヤツと同じ魔術ってオカルトを信じてる危ない組織の派閥かなんかか?」

 先に口に出したのはタマキの方だった。

「は?」
「いや………確立は低いだろうが一応確認のつもりで言ったんだが、理解した。お前は俺の敵じゃない事も分かった。
 そして時間も無い、インデックスが危ない。あの魔術ってシステムをどうやってぶっ壊すかだなぁ………」

 と学生寮に顔を向けながら、やはり上条は置いてけぼりにされている様で後ろの方は独り言になっていた。

「ちょっ!!ちょっと待てタマキ!!お前インデックスを知ってるのか!?それに魔術のことも」
「あぁ~、補修の後に道歩いてたら白い修道服着たヤツがいたから話してみたんだよ」
 と、顔を動かす事無く
「………魔術ってのはマジであるみてぇだな、彼女が言っていた事は本当だったのか………。」
 一人ごとの様に呟いた。


 彼女が言っていた事は本当だったのか………――――表情は見えないが、その言葉に上条は顔を顰めた。


 経緯は違えどコイツも俺と同じ、今に至るまで彼女の言葉を完璧に信じてなどいなかった。今となっては手遅れだが。


「おーい、かみじょーーー、なにボケーとつっ立ってんだ?つっ立ってんのは別にいいがお前も頭使え。手遅れになる前にあのロリコンぶっ殺すぞ~」
 トコトコと学生寮側へ歩いて行き何かを拾う緊張感の欠片も無いタマキの声で上条は引き戻される。


 たしかに………確かに諦めるにはまだ早すぎってもんだよな、あの魔術師とインデックスがまだ学生寮の中に居ることが分かっているうちに手を打たねぇと!!
 姿をくらまされたらホントの意味で手遅れになっちまう!!


「このフードはなんだ?彼女の物か?」と指でクルクルと回しながら、拾ったその場でやはり顔は学生寮の二階にいる人型の炎に向けられていた。
「ああ、それはインデックスのだ。歩く教会って名前らしい。さっきあの魔術師の攻撃を防げた」
「なるほど、――――ん?もしかして終始コレで全部防いでた?」
「ああ」
「ナイス、後は目の前のアレをどうやって無力化するかなんだよなぁ~。やり方は解ったけど物が無いんだよなぁ~」
「どういう事だよ?」
「二階の踊り場付近からしか、あの変な[紙]が貼られてなかったっつったろ?」
 タマキの視線の先に目をやる、人型の炎は未だに二階からコチラを眺めている様で『まるで動こうとしない』、それどころか建物の外へすら出ていない。


 上条の口から笑いが零れた。


「ハハッ………。なぁんだ………簡単なことじゃねぇか」
「まぁな。システムは簡単みたいなんだが――――って、オイ!上条!!」
 タマキの横をすり抜け猛ダッシュで学生寮へと上条は駆けてゆく。
「急げタマキ!!良いアイディアがある!」
 後ろで待てだの何だのと言いながら上条の後を追ってくるタマキをよそに目的の場所へと向かう。

 

 ――――私と一緒に地獄の底までついてきてくれる?


 インデックスと名乗った少女の言葉を思い出す。


 バッカヤロウがッッ!!!!
 助けは要らないなんて強がってんじゃねぇよ………大体なんでそういう頭の回り方するのかは、痛いほど想像出来るぜ?
 でもな、
 一人で勝手に世界に絶望してんじゃねぇ!浸ってんじゃねぇよ!!

 オレにだって、手を差し伸べたヤツは確かにいたんだ!人を勝手に見限ってんじゃねぇえ!!!


 地獄?ハッ!そんなもん、土台ぶっ壊せばいいだけのことじゃねぇか!!


 んでもって、あの野郎のニヤケ面に一発叩き込む!!!!


 上条の足と右手に熱が篭り始めていた。

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「アッー!」

 聞きようによっては間抜けなのか、はたまた断末魔なのか判断しかねるドップラー効果付きの叫び声を聞いて
 赤髪の魔術師、名を『スティール・マグヌス』という男は、声の出所から察するにあの少年は生きてはいないであろうとあたりをつけた。
 

「…………あっけなかったな。」
 

 あの少年は追い詰められてパニックでも起こし、一時的に視野狭窄に陥っての結末なのであろうとスティールは結論付けたのだ。
 今まで例が無かったわけじゃない。
 

 それにしても。っと、まだ安堵の表情はこの男の顔に訪れない。
 

 もう一人の叫び声を聞いていない。あの妙な仮面の男
 そう、もう一人残っている………それもあの少年よりも厄介そうなのが。
 

 スティールは額から垂れてきたモノを手で拭う………血だ、鉄球をかわした時に出来た傷だった。
 向こう側で破壊された壁と鉄球に目を向けると、先ほど薄氷一枚で避けたその攻撃の凄まじさにあらためて寒気を覚える
 

 あの少年は良くて『喧嘩の巧いヤツ』だったが、もう一方は少なからず『コチラ側』の場数を踏んでいる人間だ。
 どっかの刑事ドラマさながらに持って回った台詞だったが………躊躇が一切無かった。
 

 次は確実に当てるぞ!!だって?最初から頭を砕こうとしていたクセによく言うよ。
 

 そんな言を男は胸の内に言い放ってはいたが、
 仮面が放った一撃があまりにも剛速球だっため、スティール自身疑問が湧き、歩み寄り、気づけば鉄球を拾い上げて凝視してしまうほどだったのだ、
 

 が。
 

 その鉄球は見た目通りの重さだった。

 学園都市という場所に自分はいるのだという事を踏まえるに、
 破壊力と重さが反比例している様な出鱈目なモノでもこの科学都市は作り上げているのではないか?と、スティール自身少々度の超えた発想であったが、
 どうやらその範疇まで至っていなかったようだ。

 魔術的パターンも伺えなければ、魔力の残滓すら無い。
 まるっきり文字通り、スティールが手にしたその鉄球は、まんま鉄球でしかなかった。
 

 それに加え、少年をぬいぐるみの様に易々と引っ張り扱っていた事を思い出したスティールは………。



 となると、あれは単純に膂力が尋常ではない類の能力者なのかもしれないな。
 

 スティールは状況証拠から、そう解を導き出した。
 

 近づかれると非常にまずいね、だからといって遠距離だとあちらにも手札がある分――――………………………。
 魔術師でもない人間に対して、炎で光を屈折させて蜃気楼を作り、
 離れた場所で待機し、射程に入ったら先ほどのようにその一画を爆破させるという………平たく言えば騙まし討ちをするしかないか?

 と、

 スティール自身、魔術師としては非常に屈辱的だと思ったが、すぐに改め、
 屈辱もへったくれも無い、さっさと仕事を終わらせられればそれでいいのだ、よしそれでいこう。と
 インデックスの元に近づき用意をしようとした矢先に寮全体から警報が数秒鳴り響いた後に降り注ぐシャワー。
 

 一瞬、呆気にとられていた魔術師だったが。
 

 まさかこのスプリンクラーの水でイノケンティウスの追撃を逃れようとしているのかな?
 ……的外れで手遅れだね、ご愁傷様。『超能力なら鎮火させられるんだろうけど、生憎ぼくが行使しているのは魔術だ』
 ま、この建物から無事逃げられたらオメデトウと言ったところか。どちらにせよ、さっさと回収して撤収し――――。

 

 

 ――――――――チン

 

 


 音の出所は今居る階の数字が光るエレベータから。
 

 その音を合図にスプリンクラーからの水飛沫は止み、静寂が辺り一帯を包む。

 イノケンティウスから逃れる事は不可能だ。では誰だ!?まだ誰か居るのか!?まさか、冗談じゃない!完璧に敷いた人払いを偶然突破してくる人間が三度も続く筈がない!!

 静寂――――時間にして2~3秒。


 

 エレベーターのドアが開く。


「頭痛くなってきたぜ」
 そんな台詞を吐きながら、仮面がそこに居た。
 

 おまけにとっくにくたばったと思っていた少年までその四角い箱の中に納まっていた。
 

「馬鹿な!!」
 どういうことだ!!わけが解らない。なぜあの高さから落ちて未だ五体満足でその足で立つことが出来ている。

 ―――――だが。
 

 まだ手札は生きたままだ!!
 

「……イノケンティウス!!」焦りなど微塵も見せずにスティールの声が学生寮に木霊する。
 


 ボッ!!
 

 上条とタマキの後ろで申し訳なさげに姿を現した人の形をした炎は登場した時よりも、一段と迫力も脅威も火力も足りない状態だった。


 仮面を被った男は苦笑交じりに
「ハハッ!おまえさん、自分のスキルに名前つけてんのかよ?そんなのは格闘ゲームだけで十分だっつーの、言ってて恥ずかしくねぇのかよ?
 そっかぁー、イノケンティウスって言うのかコイツ」
 

 そんな人を卑下にでもしたような台詞を吐きながら二人とも普通の足取りで魔術師に向かって歩き出した。
 

「イ、イノケンティウス!!」
 そう叫ぶと同時に二人に襲い掛かってきたのだが仮面がズボンの後ろにでも挟んでいたのか、インデックスの歩く教会をイノケンティウスにぶち当てると
 空しい音を鳴らせながらこの世界から消滅した。
 

「何が起こっている!!??なぜイノケンティウスが弱体化している!!!???
 イノケンティウス!!イノケンティウス!!IIBOLAIIAOEIIMHAIIB――――-」

 魔術師は、なおもその僕なのか召還獣なのかわからないヤツに向かって、何かの言語を世界に振りまいている様を痛々しく思いながら上条が口を開いた。

「テメェが勝手にベタベタ壁に貼り付けてたルーン文字は――――」

 魔術師は未だに呪文をアブラカタブラと唱え続けている、まるで精神の崩壊を食い止める為に行う防護行動とでも言うように。

「ただそこらにあるプリンターで印刷した水性の『水に溶けやすいモノ』だよな」
 ソレを無視するように上条が言い捨てたときには、さすがに魔術師の動きはピタリと止まってしまっていた。
 

「テメェがそのままコンクリに文字彫っていたらさすがにコチラもアウトだったけど――――」
 

 二人同時に、まさに阿吽の呼吸で走り出した。その様はビーチフラッグ、もう向かう標的に誰が先に辿り付くのかといった後戻り無しの全力疾走をみせる。

「下ごしらえがお粗末だったな!!」
 

「ばッ!!――――」対して魔術師焦った声を反射的に出しているようであったが――――
 

 

 いやぁ内心、ほっとしたよ。そこまで素人がたどり着いたことには敬意を表したい気持ちでいっぱいだよ



 その裡にある思いは、笑顔に歪んでいた。
 


 そこまでたどり着いていて、『僕が予備のルーン文字を常備している』という事にまで行き着いていない
 君らはもう詰んでいるんだよ!!おしまいだ!僕の炎剣で灰になるがいい!!
 


 魔術師との距離が10メートル弱と迫ったとき、一秒も待たずしてスティールの懐からカードが――――四方八方へと風が吹き荒れるように壁に貼り付けられる。
 

 その様子にまったく動ずる事無くタマキと上条は速度を緩めることがない。
 

 ……なるほど、そこまでは想定済みということか。だから『手馴れの仮面に[歩く教会]を託したというわけか』残念だったねご愁傷様お気の毒――――
 

 左目に再び血が垂れてきたがソレを拭っている時間はない。
 スティールは左目を鬱陶しく瞑りながら仮面を捉えていた。
 

 魔術師はカードの貼り付けられた範囲3メートル――――つまり、射程距離に入った瞬間に両の手に具現化していた炎の剣を左右から挟みこむように凪ぐと同時に、
 その二人が居る一画を爆発的に炎上させた。
 

 ―――-THE END、――――
 


 

 ぞる


 

 その目と鼻の先程にある炎の壁から、孤を描くように突き出されたフードを持つ左手。
 

 その到達点は的確に『スティールが作り出した残像』に叩きつけられていた。その残像が音も無く消えうせるのを確認しながら、


 ――――塵におかえ―――


 左腕の炎剣を仮面の方へ
 



 











 途端




 光が
 


 左手の炎剣が―――――――。



 マナが――――。



 消え失せる感覚が―――――。

 

 本能的に――――、視線が左を向いてしまった。

 

 スティールの身体に、今度こそ本物の寒気が全身を突き刺す
 


 魔術師の思い描いた光景と異なる映像が飛び込んだ。
 

 少年が炎の中から跳び出した
 


 閉じた目のせいで、伸びているべき炎剣の姿と、少年の全体像を捕らえることが出来ない
 

 身体半分が映りこむ
 


 もはや寒気を通り越し、恐怖が加速
 

 

 なぜ少年の部屋で歩く教会のマナが途切れた       なぜ彼女の歩く教会は破壊された
 どうしてマの字も知らない少年の部屋で         どうやって破壊した        
                    相当に堅牢な筈だ
 破壊確認時、他のマナは観測されていない        そんな筈はない!


 

 

        なぜ少年が持っていたフードは姿を現すまでマナが感知できずにいた 
 

                    どうやって隠した!!!!
 

            少年はフードの入っていた鞄を右手で…………――――――
 

                     ――――右手
 

                         なぜ

                なぜ『二人で仕掛けてきた』


  まずい   まずい  まずい まずいまずいまずいまずいまずいマズイマズイマズイマズイマズイマズイ

 

                           よけ


 

 あるいは、思い切り飛び退いていたのであれば、彼……スティール・マグヌスに勝機はあったのか?


 答えはノーだ。

 

 

 いつもだ。
 そうだいつもだ。
 いや、今回は(高所から飛び降りたせいも手伝って)今までで一番鮮明に甦るあの夏の思い出。


 それは所謂ターニングポイント、開口一発「このド低脳が」から始まった。


 まだ小さかったあの時、オレと同じくらいの歳なのに驚くほどに落ち着きすぎていたソイツは
 大人数を相手どり、一人で全員をのしてしまった。
 レベル5なら仕方が無い、強くて当然だ。

 当時はそう思っていた。

 ………当然だと思っていた。


 でも、ソイツの能力は電気を放ったり精神を操ったりといった、物理的にもしくは直接的に相手に干渉するシロモノではなく、

『観ること』しか出来ない能力だった。


 今でも、昨日のように覚えている。
 オレと同じかそれ以上の『不幸』を背負ったアイツ。


 彼自身は一番幸福に近いはずなのに、見方によっては……いや、彼自身にとって『一番の災厄で糞っ垂れな能力』と断言したソレは
 奇しくもオレと同じ『不幸』という接点でぶつかっていた。
 しかも、超能力を――――持ってしまった体質を――――、逆に忌み嫌っていたという共通点も持ち合わせていた。
 オレの体質的な特徴とアイツの超能力の特性を見比べると180度真逆の方向なのに、
 いや………だからこそ、あの時――――鏡の前に立ったようにお互いが向き合う形になっていたんだ。
 

 でも当時、
 オレには無くてアイツに有ったものがある。
 

 不幸を嘆くことすら許されなかった筈なのに、自分自身の足で立っていたアイツの強さは
 単純に目で見て分かる力による強さ、超能力なんかじゃなかった。
 

 心が強かった、折れない精神力を持っていた。あのとき感じた強さはソレなんだと、時が経つにつれ理解できた。
 

 それにあの時、アイツは能力だけで敵をのしたんじゃない。結局のところ『観るだけ』しか出来ないんだ、ソレを観て何をするのか。
 結局のところアイツにとってもオレにとっても『コレ』は副産物程度のシロモノで、加えて――――
 

 ――――アイツには無くて、オレに有るものがある。
 

 アイツの能力は『観る』ことしか出来ない。
 だが、オレには右手もある。
 

 この右手ってヤツはホントにいい
 

 なんせ『相手の能力をイッサイガッサイ帳消しにする』ついでに
 

 そのままソイツを殴り飛ばすことが出来るんだからな
 

 


 全ての力を一撃に籠み顔面を殴りつける非常に重く鈍い音を響かせながら、
 二メートルを越す魔術師は竹とんぼの様な円運動と共に吹っ飛ばされた。

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 ・・・・・・

 その先に何を見ようとしたのだろうか。

 言葉こそ出さなかったものの、赤い魔術師の顔は驚愕の色を完全に隠せてはいない。

 彼の反応に不自然な点は無い、むしろ至極全うな反応。

 歩く教会の効力が無効になっている事は、ここにはいない仕事仲間の刃が通った事で分りきっている。
 なのでインデックスが傷を負ってまで上条に警告を出しにいった
 目的地に(自室に)あるであろうフードも当然、
 効力を失って入るのだと彼は先程までそう思っていた。


 単純に、歩く教会のマナが消失していたから。
 しかしこの単純が曲者だったりする。


 魔術師にとってマナの感知は、多少ソレに意識を傾ければ過敏にもなるが、
 感知出来る人間にとってのマナの立ち位置というのは普段の生活の中で得る情報、匂いや音の類のソレに近い。
 まして追う側の人間。

 鈍感になる事も―――怠る事も―――まず、無い。

 それはまずあり得ない。

 マナを消す、隠密に特化した術式はあるにはある。
 しかしそれですら注意深くさぐってゆき、正確な場所が分からなくとも、何かしらの揺らぎ、不自然さを感覚的に抱くものなのだ。

 それが一切なかった。

 少年が炎の渦から現れ、その手の中に当たり前のように姿を現したフードと、
 先刻まで完全に無かったマナが現在では当たり前のように確認出来るこの不気味さ。

 もはや尋常ではない。

 目の前の、
 不可解な事をこともなげにやって見せた少年は歩き出す、
 まるで横断歩道を渡り来るかのように、
 相手に思考させる暇を与えないように、

 願わくば……冷静さを欠く事を祈るように。

「Squeamish Bloody Rood!<吸血殺しの紅十字!>」
 唱えながら両手を広げ大きくのけぞり、腕をクロスさせるように勢いよく振り下ろし
 なぞった軌道と同じ形をした炎の塊を少年へと放つ。
 その魔術師の反射速度は迅速で、相手の進行を拒むもの――――というのはありのままを語っただけになるが、
 その行動の中に見え隠れする二つを少年は微かに窺う事が出来た。それは生理的に受け付けないとする、嫌悪と忌避だ。

「効かねぇよ。」
 上条は二度と轟音にすくみ上がる事はなく。
 飛んできた炎の塊をホログラムでも見ているような脱力した――――しかし素早いその手の動きで歩く教会のフードを当てた瞬間、
 炎だったモノは大気に解け消えていった。

 二撃目が飛んでくる。粉砕。
 次弾が飛んでくる。粉砕。
 上条は止らない。

 激しくなりつつある相手の攻撃に対し、かくいう受けてである
 当の本人が思っていたことはというと

 ビリビリの攻撃に比べれば楽だなー。



 重油が滴らんとするような黒赤たる大剣で斬りつける。

「MTWOTFFTOIIGOIIOF<世界を構築する第五元素の一つ、偉大なる始まりの炎よ>」

 何かの詠唱を始めながら魔術師は尚も攻撃の手を緩める事はない。

 日本には寓話で、ある日突然―――人が姿を消す「神隠し」と言うものがあるらしい、・・・まさか、それをアレンジして術式に組み込んだのか。
 だとすると、彼が持っていた鞄に組み込まれていた事になるのか?この奇術師は魔術というものが、どういうものなのか知らなかった。
 では、偶然にも地脈的な要因が重なった?無くは無いかもしれないが、偶然にするにはあまりにも悪趣味だね。
 ホントは魔術師なのか?
 そう仮定した方が動揺も少なくて済みそうだ、そうなるとこの都市全体を通しての地脈を完全に把握していなければ、
 それに移動毎時に対応するシンボルを……ダメだ、僕には専門分野外だ。

 しかし、それだけで十分だ――――。

 魔術師は魔術師で、上条がたやすく己の炎を打ち消している間、頭の中で言葉の羅列をツラツラと垂れ流し、
 目の前で少年がやって見せたトリックを自分の分野で分析し、型にはめ込もうとする事で、平静を保っていた。




 やっぱりだ、思った通り切羽詰っていやがる。
 多分、今唱えているのがアイツの最後に取っておいてあった切り札だ。と、そうあたりをつけた上条は
 絶え間なく襲いかかる炎を次々と大気に胡散させてゆく。

 粉砕っと。
 この魔法のフードを当てるとアラ不思議ってな。速度は上がってくるが、攻撃が単調になってきているな。
 ・・・・・・完全にパニクってる、たたみかけりゃいけるな。悠長にダラダラやってる暇は無い、一撃ぶち込んで終わらせる。

 上条の右の拳は相手を吹き飛ばさんと強く強く握りこみ、その足の歩みは走りに変わった。




 得体の知れない弾丸が飛んでくる。

「IIBOLAIIAOEIIMHAIIBODIINFIIMSICRMMBGP
<それは生命を育む恵みの光にして、邪悪を罰する裁きの光なり。
 それは穏やかな空腹を満たすと同時、冷たき闇を滅する凍える不幸なり。
 その名は炎、その役は剣。
 顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せッ!>」


 ――――要は、フードではなく『彼』に当てればいい。


 詠唱の終わりを告げるように男の内側から
 人の形をした様な炎の塊が飛び出した時の勢いそのままに、
 上条めがけて飛びかかってきた。

「無駄っつって――――!」
 ボスッと。相手の切り札を粉砕ざま、最後の踏み込みと同時に上条は殴り――――かからなかった。

 粉砕後の硬直はほんの数瞬だった。
 上条は進み掛けた足を無理やりにバネに変えて思い切り飛び退く。

 その上条の動作とほぼ同時。否、数瞬遅れて先刻飛び散っていた、人型だった炎のカケラが高速で逆再生でもしたかの様に、
 そこがあるべき場所と言わんばかりにぶつかり合い、

[先程まで上条が立っていた場所]に巨大な十字架を携えて再び姿を現した。


 不意打ちを回避する事は出来たのだが、すぐに上条は自由を奪われる事となる。

 再び姿を現したソレは隙を与える間もなく、
 その手に持つ、
 触れるモノはみな塵に帰さんとする嚇赤たる十字架を叩きつけてきたからだ。

 その一連の素早い動作を見切ってかわす程の心の余裕が、
 まだ動揺の残る状態の上条にありはしなかった。
 癖となっている動作で・・・・・・といっても今は左手だが、歩く教会を盾に使う事が出来ただけ上等である・・・・・・。

 少年の握る絶対の盾に巨大な十字架はのしかかってくる。


 粉砕する前からふとした疑問があった。
 魔術師の詠唱に関する言葉について、学校の成績ギリギリの上条には何を言っているのかさっぱりだった。
 しかし男が先ほど繰り出してきた人型の炎を出す時に唱えた詠唱は、
 長いわりには傍から聞いていてもそれ以前に唱えていたモノのような[何かの言語っぽくなかった]こと。

 それだけで、
 今までのモノとは違い、ソレはホントに切り札なんだなと上条は判断していた。
 それなのに、その切り札がいとも簡単に四方八方に飛び散った事なのだが

「消え失せた」ではなく「飛び散った」のだ。

 今までとの相違を捉えた瞬間、上条はたった一つ「勘」と呼ばれるそれを頼って飛び退いた。
 少年は全てを読みきっていたわけではない、現状がそれを物語っているわけでもあるのだが・・・・・・。


 ――――くそぉお!やっぱりまだ罠はってやがったかあの野郎!!


 動揺から一転、すぐに怒りに傾け腕に力をこめていたが、先程からフードを押し当て続けているというのに
 一向に消え失せる気配が無い。それどころか徐々に上条の腕が押されてきていた。

 コレッ・・・もしかして再生し続けているのか!?


「――――何!?もうひと――――!!!!」

 それは少年が相手の切り札の性質に気付き始めた時だった。


 その魔術師の声は、十字架を押さえる事で精一杯の少年にかけられた言葉ではない。
 上条自身、振り向く事は出来なかった。
 だが、顔の傍を物凄いスピードでナニかが飛んでゆく風切り音と
 その後に響くコンクリートを打ち砕く衝突音と破壊音が、視認出来ない少年の鼓膜に飛び込んだ。

「動くな!!特別風紀班だ!!今すぐに能力を無力化しろ!!次は確実に当てるぞ!!」

 そろそろ腕の限界が近く、
 次の手もなく頭が回らなくなってきた上条にして
 後ろから聞こえてきたのは、どこか聞き覚えのある声。

「お~い、ニホンゴわからねぇのかぁ!?ぁあ?
 Special City Squad(特別風紀班)っつってんだよ!!聞こえねぇのか!!」

 その口調は、ヤクザの様でも地元警察の様でもあったが
 それは下で待っていた筈のタマキの声に間違いなかった。

「その炎で出来た不細工なオブジェ――――って、クソッ!!」
 後方から恐ろしい早さで近づく者の足音と、
 眼前に聳え立つ炎の壁の向こうから新たな轟音が鳴ったのを上条の耳は捉える。

 仕掛けてきたと焦る上条だが、今の状況では既に盾を手放す余裕すらないほどに十字架は目と鼻の先に迫っている。
 マズイッ!!身動きが取れな
「ガフッ!?」
 上条自身の口から不意に声が漏れた。

 力んでいる上条の首は自身のYシャツの第二ボタンにより締め付けられ、
 グイッと首を支点に引き下ろされたのと同時に、
 ソレはまるで重力の方向が下から横へとすげ変わったかのように勢いよく引きずられたかと思うと、
 その身体は通路の外側へと放り出された。

「――――ッ!!!!」
 いま少年がいるのが、真下の地面に足がつくには軽く十五メートルを超していたからこそくる、
 恐怖心でもたらされる驚異的な集中力だったのか、
 それとも俗に言う走馬灯というモノのが作用したかは定かではない。
 が、そのゆっくりと流れるときの中で、
 魔術師が先程まで上条のいた場所を人型の炎の塊ごと大剣で斬りつけていた。





 爆音が大気を揺らすなか、
 地に足がついたのは十何メートルも下の地面ではなくアパートの六階、つまりは一階下の通路だった。
 尻餅をついて咳き込んでいた上条が振り向くと思った通りそこには、
 真夏だというのに学ランに身を包み顔全面を仮面で覆った人物、タマキが立っていた。

「お、おまえ――――」
「現状把握したい。今北産業で頼む」
 言っている事はどうにもふざけているように思われるが、その問いは今この現状では適切であり、
 言葉の強さが真剣さを物語っており、タマキはへたり込んでいる上条に手を差し出していた。

「あいつHENTAIロリコン猟奇ストーカー。
 上にいる幼女をしイプしようとしてる。
 人型のアレから逃げれた。←今ここ」

 差し伸べられた手を掴み、立ち上がりながら
 その質問に魔術師というワードを省いた上条だった。

「おk把握。………それにしても、この有様を上がってくるときに見たときは
 新手のマーキングかと思ったぜ。」
 呆れた様に言うタマキの視線の先に自然と目がいく。
「・・・・・・いつの間にこんなモン貼り付けられてんだ?気付かなかった。」

 この階のあちこらこちらに、妙な記号の札・・・・・・・・・と言うよりはトランプのカード程の大きさの紙が壁や床等に貼られていた。

「ちょっとまて、いま気付いたのか?」
「あ、あぁ・・・・・・。」
「俺が上がる時、二階の踊り場付近から既に貼られてたぞ?」

 轟!

 通路に響く音あり。
 階段の方より姿を表すモノあり。
 もし、人間と同じ位置に目と言う器官が備わっているのなら、ちょうどこちらの存在を確認したような仕草だった。

 上条とタマキは会話を交わす事無く、まさに阿吽の呼吸で同じ方向へと走り出す。

 炎に背を向け逃走を開始した。

「げっ!やっぱ追って来やがった!」
「モテモテだなお前、文字通り熱烈アプローチで見ているこっちが妬けちまうぜ」
「ハァ!?」
「上条アレはお前に譲る、さすがに間を割って入れる程空気が読めない人間ってわけじゃないからなオレも」
「フ・ザ・ケ・ン・ナ!!あんなのに抱きつかれたら焼かれる前に灰になるわ!」

「ってかなんでこんな状況で呑気な事が言ってられるんだ!!」と、
 逃げながらタマキに発言出来る余裕がある時点で、実は当の本人も呑気なものだと自身が気付いていなかったりするわけで。

「冗談抜きでヤバイんですけどキモイんですけど速いんですけど」

 人型のソレと上条達との距離が縮まってきていた。

「そりゃ足ねぇもんな、浮いてるし。あっそうか、マリオに出てくるテケテケの類だきっと、そうだ、そうに違いない。
 上条、試しに立ち止まって振り向いてみてくれ。そうすれば多分アレは顔を手で覆って立ち止まってく――――」

「俺が亜空間の彼方に吹っ飛ばされるわ常識的に考えて!!ってか、さっきから俺に死ねっつってんのかッ!?」

「さっきからお前さんの両手にぶら下がってるモンは何だ?アホ上トンマ」

「――――ッ!!!!そ、れ、を、」
 一にブレーキ、二に構え、三~四で
「先に言えッ、忘れてたじゃねぇか!!!!」
 振り向き様に右の拳で殴りつけ、そのまま拮抗し、押さえつける形となった。


「グレートだぜ康一、そのまま敵スタンドを押さえつけておいてくれ。
 その間にオレは敵スタンドの本体をたたく。と、言いたいところだが・・・・・・」

 タマキの言い草に上条も気付いた。
 地面が、壁が、天井が、そこら中に貼られた妙な記号の札の付近、大気の揺らぎを見る事ができた。

「なんかヤバくね?」
「言ってる暇があるか!上条!!チビるなよ!!」
「ガフッ!」
 先程と全く同じ扱いで引っ張られる
「・・・――――ッ!ちょっ、ちょっと?ちょっとまてタマキ!!ここ六か」
「知るか!!」

 本日二回目のダイブ、視界から遠ざかってゆく通路まるまる一画がバックドラフトでも起こしたかのような爆発をみせた。
 上条の頭はこれまでの人生の総集編を見せられていた。

「アッー!」

 落ちゆく最中、上条の叫びが響き渡った。






「ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!ha!」

 あるいは、少年の心の声をストレートに外界へとコンバートしたとすれば、
 それはいつぞやの中心で愛を叫ぶソレを軽く超越する声量をもってして浮かれていた事であろう。

 上条当麻、そのひとである。

 そういう気持ちは外食先のメニューを開いたときまでとっておこうと楽しみを待ちわびる彼は
 自分の部屋の階まで駆け上がると異変に気付いた、とはいってもどうと言うものではない、
 いつもの風景とはちょっと違った光景が広がっていたのだ。

 自室の手前側で清掃ロボが5台程一点に向かい、
 まるで椅子取りゲームでもしているかのようにせめぎあっていた。
 少年は不審に思いながら近づいて行ったがそれはすぐに払拭された。
 遠目ではあるものの、その清掃ロボ達の間から銀髪と白い服に金の刺繍が施された特徴を
 垣間見る事ができたためその人物を安易に特定する事ができたからである。

 今朝自分の部屋のベランダにぶら下がっていたインデックスと名乗った少女に間違いなかった。

 食い気に猛り燃費の悪そうな
 都市の外からやって来た異邦人は自分と分れた後、
 結局のところ捜していたフードを見つける事ができず途方に日も暮れ、お腹も空いて、
 今朝知り合ったばかりの少年に何か食べさせてくれと待ち伏せしているうちに限界が来て
 冬眠にはいったところをロボットがゴミと誤認して今の状況が出来上がったのだろうと


 街の賑わいが遠くで聞こえてくる。
 目の前ではお腹を空かせた小さな猛獣が立てているであろう寝息をかき消すように清掃ロボの起動音で満ちている。
 ごくありふれた日常の中にたまにあるこういう瞬間に
 少年の心の中に穏やかな風が吹き込んだ。


 コイツ、また寝てやがる。てか、今朝出会った時も寝てたよな?なんと言うデジャブ!?
 俺が起こしたら貴様は「おなかへった」と言う。

 劇画タッチになった少年の取る奇妙なポーズと、
 その周りから不穏な音が鳴り響いているのはあくまで『彼の頭の中』だけである。
 元ネタをしっている人間が通りがかればあるいは・・・。

 そんな特に意味の無い一人漫才を早々に切り上げ、現実に引き戻す。

 よし、下にいる玉城に事情を話そう頭を下げよう飯を食わせて貰いましょう
 俺の土下寝が火を吹くぜ!

「おーいおーきろーいそこの超絶空腹文無し冬眠デックス――――」
 san値が0になりかけた。
 言葉と足と心臓が凍りついた。
 目の前の少女は寝ていたのではなく倒れ伏せていた、背中の腰辺りに赤い線が引かれていた。
 それが血であると理解したのは数秒後

 能力者にやられた?
 いや、彼女に危害を加える動機が無い




 では誰だ?






 街から聞こえてくる雑踏や人の賑わい。
 そう云った、ありふれた日常にあるべき筈の音が
 千里ばかり―――もしくは其そのものが幻想の類である様に
 微かに僅かに薄れて聞こえてくる。

 今まで見知った現実が薄れていくというのに対し、
 目の前の惨状と・・・機械の発する音だけが木霊するこのちっぽけな空間は――――
 強烈な現実をこの少年に投げてよこした。


 上条よ、
 お前は気付くのが遅すぎた、とわいえ誰もお前を責めることは出来るはずもない。
 事前の事柄を思えば気付けという方に難がある。

 その少女を目に捉えた時点で一種の疑念めいたモノを抱く事が出来る人間がいれば、
 そいつはまともな人の道を歩いていないものか偏屈狂か陰謀論者だ。
 若しくは、その時点で全てを看破する者がいたとすれば、
 その者は一等の切れ者か生まれ持っての透徹慧眼・・・・・・世間一般で云うところの
 天眼通の持ち主でもなければ無理な状況であったのは間違いない。

 良し悪しではないが、
 今の今まで気付く事が出来なかったのは
 この上条という少年が一般の感性(諧謔的な部分はおおいに道を逸れているようであるが・・・)を持っている世間一般の[普通の人]なのでしかたない。


 仕方ない、確かにしかたがない。


 が。
 しかし其れが今この時、この場所にとっては厭うべきものである事も間違いない。

 上条よ。お前は確実に踏んだのだ、今まで周りの人間を笑わせてきたものとは方向性がまったく異質なソレを。
 二度踏む機会さえ、踏むための身体全てを吹き飛ばしてしまうほどの威力を有した地雷の轍を。
 お前は越えてしまったのだ、最後の最後の臨界点、日常と非日常を確かに区切る不可視な境界線を!

 しかし、ここまでは凡人であるはずの彼は、
 ここにきて凡夫の其れではなくなってゆく。

 先ず少年が取った行動は、目の前の少女に群がっている清掃ロボの排除。
 なのだが、この機械やたらと機体が重い、その重さ四十弱と聞くと膂力に多少覚えのある者は持ち上げられるように思えてくるのだが、
 なにせ取っ手として引っ掛けられるような部分というのが浅すぎて使うには不十分なのだ。
 従来ならこの自立的に動く円柱を五本持ち上げないしバランスを崩そうと退かしに掛かっていただろう。
 この街に住むほとんどの住人がそうした筈である。
 しかしこの少年、この動く円柱五本のどれも全く同じ箇所を足で小突いた(といっても力の度合いは強いのだが)だけで目の前の機械を無力化したのだ。

 彼自身この機械の構造に精通していたというわけではなく、
 この機械の上に鎮座し意のままに操る隣人の妹君から以前雑談の際に教えてもらっていた、というのはまた別のお話。

 背中の切り傷はそこら辺にあるようなナイフや包丁といった規格から外れてる、最低でも刃渡り六十ってところか
 傷が深いのにあまりにも綺麗過ぎる処から、叩き切るような物ではなくて文字通り一閃・・・
 俺の頭ん中で浮かんでくるのって、実物見たことねぇけど一つしかないんだよな

 それに、と。
 インデックスの事態に気付けなかったのは先程までせっせと清掃ロボ達が
 彼女の背中から流れ地に伝う血を清掃し続けていたためなのだという点にも気が付く。



 機械の無力化云々は、事前知識があったといえばそれまでなのだが(しかし実行したのは之が始めてである)
 この事態にパニックを起こさず、悲鳴を上げるでもなく、
 かといってただ戦慄し声をあげる事ができないという事でもなく、
 瞬時且つ冷静に思考を働かせて見せていた。

 この上条少年、彼特有の[不運な出来事に見舞われる体質]は
 滑稽な出来事に見舞われるのもさる事ながら、
 こう云ったネタで片付ける事が出来ない危機的状況下に出くわす事もこの呪われた体質の特徴の一部である・・・・・・が故に、
 本人の意思ではないにしろ一般の者より踏んだ場数が多いのであった。


 しかし、そこまで冷静であった少年は、
 なぜ少女がこのような深手を負ってまで自分の部屋の前まで足を運び、まだ息はあるが意識の有無が確認できぬほどに衰弱しているのか?
 という原因が、[全て自分に起因している]という事に気付き、自分自身への憤りをその顔に隠す事をしなかった。

 何故少女はここに戻ってきたのか?
 助けを求めてか?
 よもや上条少年の右手にぶら下げている鞄の中に何が入っているか忘れたわけでもあるまい。

 [歩く協会]といわれるその服は、
 彼女の口から絶対の防護服であると同時に追っ手に居場所の割れてしまう代物だと言っていたのを忘れてしまったわけでもあるまい。


 彼女は途中で気付いたのだ、フードは清掃ロボにすわれたのではないのだと。
 まだあの部屋にフードはあるのだと思い当たったのだろう、
 そうでなければこのような傷を負ってまで少年の部屋まで足を運ぶ事はないのだ。

 そう、彼女は助けを求めてきたのではない。
 彼女は少年を助けに来たのだ。
 そうする必要があるのは多分、関わった者は追っ手により問答無用で消されるからではなかろうか。


 少女は伝えようとしていたのだ。
 フードを手放して早く逃げてくれと。


 しかし、そのドアが開かれる事はなかった。

 それ以前に、そもそも彼女が背中を斬られる羽目になったのは、
 今朝がた少年の右手で彼女の着ている歩く協会の効力を打ち消してしまったからなのではなかったか。


 自分の行いが巡り巡ってこの結果を生んだ事に気が気ではなくなりそうになったが、
 目の前に倒れている少女を見て、また別の、やり場のない怒りがこみ上げてきた。

 なぜ戻ってきた!
 なぜ元凶である自分の所に、そんななりになっても尚警告しに戻ってきた。

 そのやり場のなかった怒りに方向性が定まってゆく。

 なんでこんな行動の出来る少女に対して、執拗に、背中を斬りつけてまで――――!!
 そこで少年は文字通り気が気ではなくなった。
 怒りの化身と化していた。

「誰がこんなことしやがった!」

 とはいえ、少年はまだ青かったといえばそれまでかもしれない。
 しかし、この少年は別に其れを美徳としているわけでは毛頭なかった。
 純粋な少年の叫びであった。


 が、時間切れである。

「僕達、魔術師だけど。」

 声の方へ振り向くと、そこには魔術師と名乗る黒を纏った男が立っていた。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――――



 その男は立っていた。
 魔術師と名乗ったその男の身の丈はニメートルを越しており、赤の長髪に外国特有の顔立ちを有し、
 その右目の下にはバーコードの様な刺青が刻まれ、両手のどの指にも指輪が嵌められたその手は新しく煙草を補充するべく箱をたたき、
 足先まで伸びる黒いマントを羽織るその容貌は街中であれば誰もが悪い意味で目を引くであろうというほどに現世ではかなり浮世離れしていた。

 これだけを述べると目の前に現れたその者は、最近巷で流行の[こすぷれいやー]という人種で片付ける事が出来なくもない。
 実際、学園都市と名のついたこの閉鎖された箱庭には
 現代の感性を持ってしてもいささか変わった格好の者を街中で見かける事も少なくないのだが、
 それ等はあくまで己が個性を表現しているだけに過ぎない。

 対して眼前の者は、個の表現といったアイデンティティーの類というより作業服、仕事としての其れの雰囲気が・・・…否、雰囲気などではない。
 洗礼はされていた、しかしその服の所々に過ぎた年月と綻びを見る事が出来たからである。


 先述の外国特有の顔立ち云々の通り、
 先ず間違いなく外国の者の筈なのに言葉は[こちら]のモノで返してきた、
 しかも不慣れなイントネーションは一切混じる事はなく完璧に発して見せていた。

 眼前の黒服がどこの国の出の者なのか上条にはあたりをつける事が出来なかったが、
 少女が追われている目の前の組織の規模は大体把握する事は出来ていた。


 が。
「マジュツ・・・・・・シ?」上条少年は男が言った言葉の意味を正しく理解出来ていないように、
 今まで歪めていた顔が読解不能な言語をよこされ、怒りは収まっていないが故に妙な顔つきになっていた。


 そのさまから何か探ろうとするような目つきで少年を観察していたがすぐに何かを諦めたようで、
 男の顔は落胆と苛つきを露にする。
「・・・・・・・・・まったく。[人払い]を突破して来ているからどんな奴かと思えば、魔術のマの字も知らない全くの[部外者]ときたか。」
 その口調からは業務につき物のアクシデントであるかのようである
 ・・・・・・否、本人からすればまさにソレだ。

 この魔術師某は愚痴でさえ日本語で通すのか、いつの間にか自分の知らない内に、
 世界語は英国語ではなく日の本語にすげ変わってしまっていたのか
 と、冗談半分に思うところこの上条某、
 実はかなりの修羅場を潜ってきたのか、はたまた生来緊張の二文字が欠落しているのか
 他の者が彼の懐抱を知る事が出来れば言わしめていたであろう。


 だというのに、よせばいいのにこの上条当麻、
 苛ついている業務員をわざと刺激するかのように相手の言葉を拾って返す。
「[人払い]?なんだそれ?・・・・・・!!まさかアンタ上に金渡して此処一帯に報道管制敷いたって言うのか!?」
 相手が嘘を付く可能性は十分あるが、上条は最重要で確認しなければならない事があった。


 今度は魔術師がキョトンと間抜け面を晒す番であったが、
 それも目の前の少年が、勘は良いが大きな勘違いをしている事に気が付いたとみるや。

「魔術に身を置く僕から見ても神道の信者や仏教徒や無宗教者を合わせると
 約四億人に達するこの国の方がよっぽどミステリアスだと思うんだけどね。」と、クツクツ笑いながら一通り流暢な日本語で捲くし立てた。

 上条は相手から情報を引き出すため、最初から芝居を打っていた。

 前後の態度と台詞により、上条の頭は異物の信号を消化するのに暫し遅延になっていた。
 自分で導き出した答えではあるが・・・其れを鵜呑みにしろと言うのはあまりにも、常識的に考えてその確立は0パーセントに等しかった。
 目の前の人間は、魔術はある物なのだと裏を返せば暗に言っているのだった。

 少年は聞いた事がない
 少年は見た事がない
 少年の頭は認知する事を拒んでいた。
 だが不意に、この右手が少女の服に触れたとき確かに[ナニカ]を打ち消した感覚があった事を思い出した。
 其れがあったから彼女が忘れていったフードも、無意識のうちに『そのナニカを打ち消してはいけない』と左の手で掴んだのではなかっただろうか?
 自分の頭でこうも悩んでいる遥か以前に、自身の本能はそれを悟っていたという事に少年は気付く。


 そうだよな、確率の問題じゃねぇ・・・・・・俺が知ってる事だけが『絶対』じゃねぇよな。


 目の前の少年の固まった表情に貶し交じりのジョークが理解されていないと見たのか、
 はたまた自分で言って自分で笑っている姿を客観的に見て捉え馬鹿らしくなったのか、
 もしくはその二つが交じり合い、いつしか業務員の小休憩で寛いでいた顔つきが仕事の顔に切り替わっていた。
「・・・・・・それより、そろそろ退いてくれないか?」

 ほら、ござった。
 このまま異国同士の風土について舌戦に持ち込む事叶わないといったように上条、次の言葉も安易に想像できた。

「ソレ、回収したいんだけど。」

 読んで字の如く地の果てまで彼女を追ってきた者なのだ、しかも組織として動いている人間だ。
 しかし、
「・・・・・・回…収・・・・・・・・・だと?」と、みるみる上条の顔は歪み青筋が立っていく。
 別に、少年にこれといって今の状況を覆す力はない。どの様な事を言うか分かっていても言葉は選べと魔術師にいってやりたい。
 この少年、有事の際には無駄に頭を回すことが出来るのに[これだけは引けない]モノを本人の無自覚で有しているのだ。
 それも、傍から見れば超が付くほどの不器用さで。

 己も人間。
 相手も人間。
 では、自分の後ろで背中を斬られ、額から・・・白の修道服から覗く手足から汗をにじませ、浅く息をする事しか出来なくなっているのはなんだ?


「そうだよ回収するんだよソレ。」少年の逆鱗に触れているのは猿だって分かっている。それでもその少年を前に平然と魔術師と名乗った男は続ける。
「そのために僕達は遙々こんな国まで足を運ぶ事になったんだよ、まったく骨が折れるよ。」そう言いながら男は両手を広げ天を仰いだ。
 そのどこまでも手前勝手な様に上条
「ふざけんなテメェ!!お前らの狙いってぇのはあくまでこいつが持ってるっていう十万何千冊かの魔道書の方だろ!!それを差っ引いてもお前等、寄ってたかって年端もいかねぇ女の子追っかけ回しやがって」
 感情を押し殺さんとしてその口から吐かれる言葉は今にも相手の喉下を喰い千切らんとする勢いにまで達していた。
「ああ、その十万三千冊なんだけどね。」目の前の殺気を軽く無視して何かを思い出しているあたり、絶対的な実力を備えている物の対応である。
 鼻から少年を敵視などしていないのだ。


「ソレの頭の中にあるんだよね。」


 上条は止まった、身体と思考が。唯一動く心臓の鼓動がこの空間でひどく主張していた。


「なんでも。一度見た物は一字たりとも欠かす事無く墓場まで持っていってしまう生まれつきのモノらしいんだよね。
 そんな特殊な能力を持った人間が十万三千冊もの魔道書を現に頭の中に保有してる・・・・・・全てが廃人クラスだって云うのに、中には第一種臨界不測級の物まであるときた。
 まぁ、ソレ自体には魔術を行使することは出来ないが・・・・・・君に判りやすく言うと核爆弾が不発の状態で野放しになっているといったところかな?」

「・・・・・・だから、目録ってか?」

 なぜ少年が酷く顔を顰めてゆくのか魔術師は分かっていた。

「君はソレを人間として見ている節があるみたいだけど。ハッキリ言って、君が思っている以上に危険なものなんだよ。
 その分野の人間だから判る事ってのもあるだろう?まさにソレだ。それにね、先刻は回収なんて言ったけど、正確に言えば保護だ。」

「持って回ったように饒舌になりやがって、保護なんて後付がましいのも大概にしろ!!結局はコイツの保有しているモノを独占したいってだけじゃねぇか。
 その為なら背中を斬りつける様な連中の方が人間じゃ――――ねぇよ!!」
 もう我慢の限界といわんばかりに上条は七メートル程の距離を低姿勢で四歩で縮め(右は鞄を持っていたため)左の拳で鋭く殴りかかったのだが、
 その拳は空を切り魔術師はすれ違い、少し互いの距離は広がったものの立ち位置を入れ違うようになっていた。

「君、喧嘩強いだろう?」そういって銜えていたタバコの端に人差し指をかざすとその指先から火が、ライターの代わりを果たす。
「・・・・・・・・・。」やっぱりわざとだったかと上条は心の中で毒づいたのと同時に絶望した。

 上条が殴りかかった・・・正確に言えば殴ろうと判断したのには訳がある。
 インデックスがナガモノで[斬られて]いる以上、帯刀を上条は警戒していた。
 しかも相手はマントを羽織っていたため、腰周り及びその内側に武器を携えている可能性がありアクションを起こせずにいた。

 先程の天を仰ぐといった、やや演技がかったポーズで刃物類は所持していないと判断したがインデックスがベランダに落ちた経緯を忘れてはいなかった。
 銃の所持――――であるが、この時点で背中か腰の後ろの方にしか銃をしまう場所がないと分かった事(不自然な膨らみを認めなかったため)。
 それにつけて、相手はこちらを警戒どころかポケットから取り出したライターでタバコに火を両手で囲うようにしてつけようとしていたのだ。
 これ以上の隙はなかった。
 その状態から武器(銃や刃物)がもし背後に携帯されていたとしても、
 この距離を瞬時に縮めてくる相手にソレをマントの脇から手を伸ばして掴み、前面に構えないし薙ぐのにどれ程の時間を要するであろう。

 上条の足元に先程まで魔術師が手にしていたライターが転がっていた。
 ブラフ。
 相手していない素振りをしていたがその実、きっちり警戒していた。
「君の予想通り、彼女を撃ったのも斬ったのも僕じゃない。」
 しかもしっかり気付いていた。
 しかしそんな事よりも先に周りを瞬時に見渡す上条、魔術師はその様子に
「ああ、彼女ならここに居ないよ。ソレを斬ったとたん急に体調を壊してね・・・ほんと、戦闘だけで言えば僕より上だっていうのに」とつまらなそうに呟く。
「だから、此処には僕しかいない。回収して撤収するだけの仕事にもし魔術師が一人二人障害が立ちはだかっても、その程度はどうとでもなるからね」
 なんだか魔術師の口調が世間話の様にどうでもいいといった様にベラベラとまわりだしていた。

「・・・・・・・・・」上条は無言のまま戦闘態勢を解こうとはしないのを、ついに魔術師が諦めた。
「・・・さて、そっちはどうやら全て話しても諦めてくれないみたいだし、一応古臭いしきたりに従って名乗らせてもらう。っといっても魔法名というより――――」

 話を切るように上条は先刻とは比べ物にならない位に弾丸の如く距離を縮めんと駆け出していた、
 目の前の魔術師が名乗り終えれば全てが終わると上条の中の本能が警告音を出したからだ。
 今までの魔術師の余裕に満ちた態度はまさにこの数秒後のそのナニカだという事が間違いじゃなくなった。
 互いの距離の十二メートルを三歩で半分に縮める。

「――――Fortis、これが僕の殺し名だ」
 先程まで緩みきっていた魔術師の顔が鉄のように引き締まる。
「Kenaz<炎よ>――――」そう言い放った魔術師の腕の先に炎の大剣が生み出された。

 その炎を前に上条は恐怖に駆られ、その全力で駆けていた足の甲を杭で穿たれたように止めてしまった。
 上条は炎の放つ光と色の度合いからその大剣がとんでもない高温だという事は分かったが・・・・・・いったい何度に達しているものなのか読む事は出来なかった、
 しかし彼の足を恐怖心で止めたものは大剣の形をした炎が発する光ではない、『音』だ。
 音の類だけで言えばガスバーナーのようであったが、これほどに距離が離れているというのに大気の震えが肌に伝わってくるほどの轟音だったのだ。
 咄嗟に、反射的に、上条は両の手で顔を庇った。

「――――PurisazNaupizGebo<巨人に苦痛の贈り物を>」
 その様子を見て魔術師は笑った。笑いながら少年へと己が生み出した大剣を横薙ぎに叩きつけた。
 少年は大剣から鞄を盾にするように当てるところまでで姿を消した。爆音と轟音と少年の立っていた辺り一面を、業火という闇の中に。

 人間を消し屑に出来る炎を前に、恐怖に駆られた者が反射的に、本能的に取ってしまう行動だった。

「ちょっとやりすぎたかな?・・・関係ないか」

 その区画は燃え続けていたが、魔術師はすぐさま少年がいた場所に立っている炎から背を向ける。
 安否を確認するまでもない、先の大剣の炎―――3000℃余り。2000℃以上で人間は『焼ける』ではなく『溶ける』らしい。
 生死の確認をするまでもなかった。

 それより、と。
 魔術師はインデックスの傷を見る。あの少年が、頭は回っても馬鹿で良かったと心底思う。
 人質として――――盾として彼女を使われていたら厄介だった事には違いない。

 それと、と。魔術師は心の中で呟き、インデックスが倒れている側のアパートのドアに立つ。
 インデックス。彼女が何故ここに戻ってきたのか魔術師は見当が付いていた……大方あの少年の部屋なのだろう。
「……フードはこの中か」もちろん魔術師は少年の部屋の鍵など持ってなどいない。少年が持っていたとしても――――。

 炎の方へ振り向き暫し眺めたが、あきれた様にドアに視界を戻す。
 やはり壊すしかないか?と魔術を行使する前に嫌味を吐いた。
「……まったく、最後まで迷惑な奴だよ君は」

「おいおい、家主の目の前で空き巣かよ?」

 固まった。某アリナミンCMではないが魔術師は確かに身も心も固まった。
 煉獄の炎の様な中から聞こえてきたのだ。

 轟々と燃える炎と、濛々たる黒煙が辺りに狂い咲いていたというのに、
 その炎は周りの区画が一瞬にして無酸素状態にでも陥ったかのように、速やかに勢いをなくし
 黒煙も、パレットに残った水彩の絵の具を水で洗い落としていくかのように瞬時に色をなくした。
 その中心に姿を現したものがある。


 上条当麻がそこにいた。左手に、唯一少年がその右手で壊さなかった、少女の、歩く教会(白いフード)を携えて。







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[08/03 ぽ村]
HN:
一り
性別:
非公開
趣味:
コレといって固定はないです
自己紹介:
超弩マイペース。
自分のペースを乱されると拗ねて
寝ます。
血液ゲノムで天然B型と発覚
「こ、こいつ…先の行動が読めねぇ(汗)」だそうです
血液ゲノムとか信用すんな。
血液型占いとか信用すんな。
人を信用すんな