2010/10/30 08:31:42
「それにしても、さっきの人って・・・・・・」
現場を後にし、事後処理の書類作成の為に本部へと向かう道中、
頭がお花畑の初春が先ほどの出来事を振り返るように口を開いた。
彼女を『頭がお花畑』と言ったのはあくまでも比喩ではなく、
埋もれる程に髪飾りがワンポイントアクセントとしてではなく
もっさりと圧し掛かっているようなソレはもはや白米の上に乗っかる具のソレであって・・・・・・
言い方を変えると丼もののようなカラフルな頭である。
「そうですの・・・・・・あの暑っ苦しい格好をした仮面の方、二区の訓練施設に居た方ですわね。
多分、アンチスキルの方々に聞いたところでマトモな答えは返って来ませんでしょうに。」
隣で並んで歩く白井黒子は、はなから答えを期待していない様に言ってはいるものの、
その顔は少し険しくなっていた。
ジャッジメントでも無く、
ましてはアンチスキルは教師のボランティアで成り立っているものであるにも関わらず、
先程の仮面を被った人物は訓練施設でアンチスキルと一緒に全く同じ扱いを受けており、
且つ彼らアンチスキルに容認されているかなりイレギュラーの存在に良い思いはしない黒子だった。
先程の件で能力者と判明したぶん、今までは学ランを着てはいるものの『アンチスキルの人間』
だとばかり思っていたのだが、その可能性は跡形もなく消え去りアンチスキルに対する不満と猜疑心が胸の内に、
顔に表れている事に気付きハッとした。
「……でも、あの仮面の人の能力って何なんでしょうね?」と、
人が折角しまいこむ事に成功した事柄を掘り返してきた初春の何気ない独り言に、
もう…なんだ………付き合う事にした白井黒子であった。
……人だかりにいた初春には
あの時、仮面の方が使った『超能力』を分析するには、あの人ごみと距離から考えて
よく見えてはいなかったみたいですわね。
「テレキネス(念動力者)にしてはぶつかる瞬間
車体に触れていたようですし(軽く叩くような音がしましたし)・・・・・・触れた瞬間あの方の足元を中心にアスファルトにヒビが入ったのと同時に
車の運動エネルギーが瞬時に消えた様でしたわ。
でもその直後に車を叩きつけたところを見ると……やはりテレキネス系の能力者なのでしょうけれど」
そう言って初春の顔を見るが、向けられた本人は
『もう少し先まで考察してるんでしょ?』といった感じの顔になるもんだから――――
「身体強化系の能力なら、車を受け止めてアスファルトにヒビがはいるのはわかるのですけど・・・・・・
そんな感じの止め方じゃなかったのは見た時の違和感が強かったので身体強化系は該当しませんわ。
それに、もし仮に身体強化の能力者ならあの猛スピードの車を、仮面のせいで表情は読み取れてしませんでしたが
片手で処理した一連は、本気でソレをやってのけたとしても下位ギリギリではあるものの最低でレベル四クラスですわ。
まぁでも、絶対に身体強化ではないのは間違いありませんわよねぇ……あの場を去るときすれ違いざまにあの車を見てみたのですけれども、
彼が位置的に触れていた部分が凹んですらいなかったんですの。」
――――言ってみるには言ってみるが、案の定身体強化系であった場合と念動力系であった場合の矛盾点で悩み始める初春であった。
独り言のように先ほどの人物の能力はなんなのか推理しているが、
ベクトルを操るという発想……自体はあるのだろうが、
それはありえない(レベル5の一人しかいない)のではなから除外しているのだろう
「………………あーもう!わかんないです!」
炎天下も手伝って初春の頭はオーバーホールしたようである、それについてはこちらも同意したい。
「まぁ、書庫で検索しても出て来ない人間の事を調べても意味はありませんわ。
触らぬ神に祟りなしと言いますし。それよりあそこのコンビニに寄りましょう、喉が渇きましたわ。」
「そうですね。ついでに差し入れも買っていきましょう。」
そういって二人ともそのコンビニの中へと入る。
黒子はこの件に関して考えないことにした。
たった一人の人間にこんなに頭を使うのは一人だけで良いと。
「いらっしゃいませ。」
大きくもなく小さくもなく、高くもなく低くもない……というかよっぽど特徴が無いと気にも留めない
コンビニ店員の決められた台詞の声を聞き流しながら、ジャッジメントのエンブレムを制服の袖にぶら下げた二人の少女達は
買い物籠に、2㍑のペットボトルを二本と紙コップ、スナック系二袋と生チョコの詰め合わせ一袋に
『お花畑』はいつも個人的な買い物として髪飾りを放り込みレジへ持って行く。
「いらっしゃいませ。」先程近くの銀行で強盗があったと帰りに此処に立ち寄った野次馬達が話をしていた。
「お会計のほうが 円になります。お箸のほうは?」
「お願いしますわ。」
いつも通り五本か……でも毎度思うことなのだが片方の女の子は頭のソレ、重かったりしないのだろうか?
来店するたんびに、というか多分毎日髪飾りの配置や種類が違っているのだろう、自宅には一体何個の髪飾りがあるのだろうか?
品物を二つのコンビニ袋に分けて入れ、最後に割り箸を五本袋の中に入れる。
ジャッジメントは騒動鎮圧後に事後処理の書類作成が待っているそうだ、
これは『ツインテール』が、隣にいる『お花畑』に前にぼやいていた。
彼女らのように自ら進んで『憎まれ役(ジャッジメント)』になってまで、この街の風紀を保とうとは僕の中では起きないためか、
疎ましく思ったりは思わないし逆に尊敬の眼差しを向ける訳でもなく、
だからと言って斜に構えるわけでもなく、ただ無関心………というわけではないだけ少しはましなのだろうと思う。
ご苦労様の一言である。
僕はただの、平穏な毎日を退屈に思いながら暮らす学園都市のいち学生にすぎない。
退屈だからといって自分から飛び込むような性格ではない。
それに表舞台に出るにはそれなりの覚悟が必要なのだ、そんな度胸も意欲も力も無い。
「有難う御座いました。またお越しくださいませ。」
この時間帯で客足がパッタリ止まったりする、立地環境の割合がでかいと思うが……良くある。
このコンビニは他の店舗に比べて売り上げが低い、つまり客があまり来ない、
にもかかわらず潰れないという、そろそろ学園都市七不思議に新たな不可思議として追加されても良いのではないかと本気で思い始めている今日この頃、
皆さんどうお過ごしでしょうか、僕はいつもと変わらず退屈な日々を送っています。
「今日もまたいつも通り、奇麗さっぱりとしたお店の中で、君と僕だけの時間がやってきたね。」
「そんな事を言ったりするのはどうでも良いです聞き慣れましたから、
問題なのは僕の背後に、気付かないうちに忍び寄って眺めながらそんな事を言うことです椿さん」
そう言いながら振り返るとその先にはやはり熱視線を送り続ける椿さんが……。
目の前で僕に熱視線を送り続ける人物、
名前は 椿 弘文(つばき ひろふみ)。
今年大学三年なのだそうだ。
容姿はハッキリいってイケメンなのだ、レベルでいうとモデル級なのだ、
身長も180越えしてるし着やせタイプだしストリート系でぶっちゃけそこら辺の女性にモテない筈が無いと断言してよい素体の持ち主なのだ。
「また何か(エロゲ)の台詞もじったんですか?というかですね、さっきから何やってんですか。」
んで、なんでそんな彼が僕にそんな視線を飛ばすのかというと
「ん?視姦」
…………うっとりしたような目で、戦術核のような破壊力を持つ言葉を平然と男の僕に対して言ってのける椿(エロゲイ)。
▽
「ん?僕たち同性愛者だけど?」採用されて初出勤の時、面接時に感じた店長への違和感を口にしたら
彼から最初に放たれた言葉がこれであった。
あまり客が来ない=仕事量が減る。
しかし、給料はどこの店舗も同じ。
ならこっちの方が自室からも近いし得だと思った。
すんなり採用された、ラッキーと思った。
初出勤。
やはり、この店には客が来ない、雑誌の立ち読み客すらこの時間帯はいないのか……ますます仕事が減ってなによりだ。
この店舗で一番の古株で、自分の仕事のパートナーとなった椿さん。爽やかだし人柄よさそうだし、仕事がしやすそうだ。
それで店長に対する違和感を何気なく聞いたら返ってきた台詞がこれだ。
店内に椿さんと二人きり、業務室に店長、他にこの建物に人は居なかったあの瞬間。
僕『たち』
終ったとおもった。
本気でそう思った。
冗談抜きで貞操の危機を感じた。
あの言葉を聞いた瞬間、体中から、本能が、細胞が、アラート音を最大出力でかき鳴らしたのを覚えている。
が
「まず初めに言っておくけど、僕も店長もノンケには手を出さないよ。
ちなみに店長と僕はデキてないからね?偶然だからね?
けどあからさまでもないのに店長を見抜くとは……よく分かったね。あの人、僕でも気付くのに少し時間が掛かったのに――――――」
と、何だかんだで最初に放った言葉は本当でその後に続いた言葉も『今のところ』本当である、
手『は』出していないの但し書は付くが……。
△
その後、夕時の店内は少し客がいつもの勤務に比べれば賑わった。
客層は皆、業者やこの都市の外から出勤してくる一般人の正社員である。
子供が遊ぶにしてはこの近辺はなんにも無い……いや、あるにはある。物凄く人気なデパートがある、
その少し離れた裏道は民家がなくオフィス街なものだからこの都市の八~九割の人間の動線から外れている場所にあるわけである。
昼食時や帰宅時にこの店に寄るものだから、その時間帯のお客さんは『常連さん』になるわけで、
店自体に客が屯している事があまり無いためか、お客さんの方から話しかけられ話し相手になっている。
嫌いではない、むしろこちらも暇なので丁度よかったりする。
冗談だが、お客さんに何を売っているのか、たまにわからなくなる。
そう思うと、此処は学生と一般人が交差する数少ない場所なのだろうと思う。
「お疲れ様です」
「うん、お疲れさん」
今日は朝勤だったから、18時のアガリ。
昼夜勤の人と入れ替わるように事務室に入り、ユニフォームを自分に割り当てられたロッカールームに掛けていると、
「――――あ、そうだ。忘れるところだった。」と言って椿さんは、尻ポケットから一枚のディスクを取り出した。
「コレ、城戸君に渡して欲しいんだけどいいかな?」
「いいかな?って疑問系で聞いているのに、そう言いながら僕のバックにしまい込もうとするのはどうかと思われ」
「いいかな?」
「目をキラキラさせてもエロ光線出しても無意味だといってるんです。」
たまにこういうふうに椿さんから何かを渡される事がある。それはディスクだったりフラッシュメモリーだったりと、データが入るものなら形を問わない。
「さっきゴミを捨てに行ったときにマンホールから出てきてね。」
「ハイハイ、マリオマリオ。空の次はマンホールですかー。そうですかー(棒読み)って、ゴミ捨てに行ったときっていつの話ですか……」
そして、この渡される記憶媒体は椿さん本人の物ではないらしく、僕は未だにこのデータの送り主の顔すら見たことがない。
いつもその依頼主の登場シーンを突拍子も無い様な付加を付けてくるので、コチラはネタを返して流すのが普通になっている。
それはともかく、本人が直接渡せば済む事を何故に二重にアクションを重ねなくてはいけないのか?などと嫌で薄暗く不気味な処に勘繰るわけではあるのだが、
椿さん曰く『毎日を必死にだらけて生きている人』と、その言葉通りの事を受け取っていいのか、
要領を得ない回答が返ってきて何ぞソレ?とトンチを解いていると、「予定が詰まっている時とかにしか頼まないよ」とも椿さんは付け加えるので
毎日を必死にだらけ・・・ん?・・・・・・まぁいいや。と、適当にその部分はスルーする事にしている。
つまり、 ハーイ、カンガエナーイ
「で、コレを兄貴に渡せと・・・・・・」
「そうみたいだね」
輸送先はいつも変わらず兄貴の所、此処からだと兄貴の住んでいる地区まで距離があるワケで、自分としては単純に
「遠いし、時間が掛かるし面倒臭いワケですよ」
「でも、届けるだけでお小遣いが貰えるから良いんじゃないのかい? あっ、忘れてた」と椿さんは店内の方へと戻っていく
「・・・・・・まぁ、そうですけど。」そう独り言を呟き、CDケースを開くとディスクが一枚とお札が一枚と運賃代。
一万円はデカイと思う。・・・・・・明らかに中に入っているデータは違法な物なのだろうと最初はビクビクしたものだが、
それを察した椿さんが 依頼主は俺や君よりも、 月の支給額が高い のだと、その誤解を解いた。
なるほど納得至極当然と全てを理解した。
この依頼主、ブルジョアである。というより、多分レベル三~四くらいあるのだろうか? 楽が出来てうらやましいかぎりである。
まぁ・・・その中のデータが違法であれ合法であれ、兄貴んトコに渡している時点で、ただの音楽データやテキストデータやプログラムデータでは無いだろう・・・多分。
中身を見た事ないし、見る気もおきない、恐い云々以前に興味が沸かない。
ま、純粋に一万円貰えることをよしとしよう。僕は運送屋、それでいい。
つまり、 ハーイ、カンガエナーイ
はてさて、これからの予定をどうしようかとしていると
「私からの気持ちだ・・・・・・・・・好きなだけとりたまえ――――」
と芝居臭く・・・否、芝居の台詞を吐きながら指し示された先には・・・・・・というか椿さんが持ってきた食べ物やパックの飲み物等が入った籠の数々、
貴方の気持ちがそれらに入っていると嬉しくないというか鳥肌が立つというか身の危険というか厳密に言えば貞操の危機を感じるわけで、
まぁそんな事はどうでもいいのだ、問題なのは先手を討ってソレを救出しておくか、という事なのだ(0.01秒)
「――――ただ」
「んじゃ、全部貰いますね。」
「し?あっ、ちょっとソレだけは貰えないかな?」その言葉を無視して籠の中からお菓子の袋を四個奪取、うち一匹を袋から救出する。
「ダメです。いいですか?コレ、食べ物ですよ?」と先手を討って救出した野球ボール二つ半くらいの体積を持つ、とあるRPGゲームの敵として登場する
日本ではかなりポピュラーなスライムを模したグミの塊の頭の部分を摘み上げ、ヨーヨーの様にビヨンビヨンさせている自分もこの時点では言えた事ではないが、
僕はこのグミが好きである。
『野球ボール二つ半程の体積の一個のグミ』というそれだけでもう既にファンタスティックの領域の存在だというのに、
しかもスライムというチョイスに加えこの恐ろしいまでに美しい立体感のある曲線や
スライムという生き物を表現する為に色や透明度のレパートリーの多さもさることながら
目や口のパターンとディティールにも一切の手抜きが無く・・・このスライムの元である型を作った職人は・・・・・・もう造形美術の域に達している、
且つこのグミはよく伸び縮みする。
不思議な事に引き伸ばしで千切れる事が無く、今やっているヨーヨーもそうだが、
頭を摘んで思い切り振り回すと半径50~60センチ位まで伸びるがどうにも切れない、
ソレなのに普通に噛み切れる。
余談だがそういう事(ヨーヨーの様に伸ばして遊んだり)をする時は涙目のスライムをチョイスしよう!そうすればもう満点に近い!!
造形、材料の技術だけでは飽き足らず、さらには『ぷよぷよ』と触り心地が良いのだ。
実物なんて元々居ないので触れた事は無いが、多分本当に居たらこんな感じなんだろうなと思わせるこの触り心地の良さは
社会にもまれたドライな人々の心の癒しに効果は抜群だ!
技術の粋を集めて出来たこのグミはまさに、キング・オブ・グミないしキング・スライムとして頂点に立っていると言っても過言ではないだろう。
『学園都市の住人で良かった』と本気で・・・否、心底このお菓子が出た時に思った二日前であった。
わけだが・・・・・・・・・・・・。
「椿さんコレ食べないでしょ?」
「うっ・・・・・・。」
別に、眼前にギクリとした感じに身を止めているエロゲイがこのグミの造形が愛らしすぎて『これがグミでいいのか!?食べるのが非常に勿体なさ過ぎる!!』と言いながら、
ビヨンビヨンさせたり鑑賞したりして一通り完成度を肌で感じた(遊んだ)後にお菓子本来の役目をまっとうするなら分かる・・・・・・普通に美味いし。
しかし、エロゲイ曰く
「いやぁー、まさか実現できるとは思ってもいなかったなぁ」などと、僕と同じようにスライムのグミがこの完成度で出ると思っていなかったのだろうと
二日前のお昼の暇ーな業務中に盛り上がったのだが
「・・・・・・・・・・・・この完成度なら出来るかもしれない」などと、一通り盛り上がりが冷めた頃に。
ぼそりと、
手にしたスライムのグミを見つめながらそんなことをエロゲイが呟いたのが耳に入ってしまい
「は?」などと、条件反射で拾ってしまうわけで
「ん?ああ。トンヌラさんがやったように………こう、コレ(スライム)に穴を開けてだな――――――――――――――――――――」と、
後半の部分は倫理(というかお茶の間事)情、割愛させてもらうが、その場にいた人間が(自分一人しか居ないが)確実に二秒ほど固まってしまった後に
それを聞かされた人間が棚に並んだ新商品を全て買い占めたのは言うまでもない。
「……わかった。このハイキの山(と交換)でどうだい?」
「言った事を瞬時に逆転させて騙そうとしても無理ですよ、全部覚えてますから。
それに、この商品自体は他の店舗でも売ってるじゃないですか。他の店舗で買ってください。」
「それだったら此処で買ってもいいじゃないかよーーー」
「子供みたいな素振りをしても駄ー目ーでーす。こっちの身にもなって下さいよーーー」
そう、そういう問題ではないのだ。
そんな問題発言をぶちかまされたら、新商品として発売されたこの商品を買ってゆくお客さんをどうしてもレジカウンター越しに見るようになってしまったわけで。
「………」
正直に話そう、新商品を買っていったお客さんの中で、それが何のキャラクターなのか分かったうえでの感動でちょっとわくわくした表情をするお客さんはたくさんいた。
袋越しに触ってみても感じるぷにぷに感にスゴーイと、さらに表情が明るくなる人もたくさん居た。
その過程を経て、そこから静かになりほんの数秒見つめた後、お買い上げした人も少しは居た。
だが一番多く居たのは、あくまでスマートに単品、もしくは何かと抱き合わせで買っていく『はじめて見るお客さん』だった。
何か自分が一気に薄汚れた大人になったような気がした。
「よし!無い物は仕方ない。発注しちゃお。」
そういって、エロゲイはこの店の売り上げ表の表示されたモニターを眺めながら、淡々と発注と商品の切捨てを行い始めた。
回想するだけで全ての体力を持っていかれ、エロゲイの行動にツッコミを入れる気力も無くなっていた十儀であった。
そのような事があった数分後。
両方の手に二つずつ食べ物で埋め尽くされてパンパンに膨れ上がった一番大きなサイズの袋をぶら下げながら、コンビニから出てくる人間がいた。
……つまりは、僕のいつものバイト先からの帰宅風景になるわけなのだが、エロゲイなんていう濃い人物と一緒に居ると、
業務を終えて店から一歩外に出ただけで随分と空気中に漂っているよく分からない粒子の度合いが薄いというか
……つまりは、エベレストの山頂からの絶景とでも言おうか。灰色の空を下から眺めているにもかかわらず、だ。
毎日エベレスト登頂してても仕方ないのだが、その表現が他の例えを許さないのだ。
何からも開放された喜びというのは今までの困難(エロゲイ)を乗り越えた先にあるピーク地点に生まれるものであり、当然登ってきた道には
「何分待たせる気かしらアナタ?」
「…………」
下りの帰り道が存在するのだ。
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